介護職は、施設、在宅を問わず、担当する利用者から様々なことを学ぶ瞬間があります。特に、利用者の自宅で援助を行う訪問系では、長年利用者が暮らしてきた在宅での生活をまず受容することが原点だと私は思っています。
たとえその介護や家事の方法が、一般的には受け入れられないものであったとしても、命にかかわるような特別な場合でない限りは、いきなり否定をすることは避けたいものです。
ヘルパーに、夫婦のことを決められたくない!
80代前半の下半身麻痺の妻が、80代後半の寝たきりの夫を長年介護している夫婦の担当になった時の話しです。
寝たきりの夫の介護は全面的に妻が自分で行うとのことで、訪問入浴前の準備と見守り、そして妻と車椅子での買い物介助が援助内容です。
以前から、家の中を這って移動する妻の介護に不安があり「夫婦での在宅生活はすでに限界ではないか。」と、夫の施設入所も含めた検討もされていました。
しかし、「夫は最後まで私が世話をする!」という妻の強い意向があり、それまで何人もの職員が説得を重ねては、その後の訪問援助を拒否されてきた経緯があったようです。
担当を引き継いだ私の訪問援助がスタート
担当者が替わり、妻はきっと、また介護のことについて言われるのではないかと、じっと様子を伺うような厳しい表情で私を見ていたのを今でも覚えています。
私自身も、事前に色々な情報を聞いた上で訪問していたこともあり、重苦しい雰囲気の中で援助がスタートしました。
援助中、なかなかスムーズに話もできない中、何気なく窓越しに見えた真っ赤に色づいた紅葉を見つけた私は、庭の話を妻にしてみました。
「あなたは植物に色々興味があるようだね」と、それを機に妻と会話の糸口ができたのです。
そしてこの庭で夫婦でたくさんの植木を育てたこと、たくさんの果物がを実ったことなど熱心に話してくれました。
太陽のようなヘルパーになりなさい!
それ以来、少しずつではありましたが、穏やかに会話ができるようになりました。そんな中で、妻から言われたこと。
「あなたは太陽のようなヘルパーになるんだよ。太陽はとても暖かいけれど日傘をさせばその中まで陽は差しこまない。押入れを開ければ中まで陽は入るけれど、押入れを閉めればその中まで陽は入らないよ。」
「自分達のことは自分達が一番よくわかっている。だから、もう少し何も言わずにこのまま自宅での生活を見守ってほしい」
初めて本音を聞かせてくれました。
その後、夫は自宅で亡くなり、妻もその後間もなく亡くなりましたが、今でもこの言葉は私の心の中で生き続けています。
まとめ
今回の援助を通して、私は多くのことを学ぶことができたと思います。